SNSの活用が企業マーケティングの成否を決める大きな要因であることは、疑いのない事実です。しかし、SNSマーケティングを効果的に進めるためには、最新の知見や技法を積極的に取り入れることが必要です。
中でも、顧客の生の声に耳を傾けることでより良い結果を導く「ソーシャルリスニング」は、企業マーケターに欠かすことのできない手法となりつつあります。そこで、本記事ではソーシャルリスニングとは何かについて紹介するとともに、ソーシャルリスニングのポイントを紹介します。
目次
ソーシャルリスニングとは?
ソーシャルリスニングとは、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディア上にある顧客の生の声に耳を傾け、自社ブランドや商品・サービスへの評価を分析することで、自社のマーケティングに活かす手法のことです。ソーシャルメディアを利用している人であればわかると思いますが、ソーシャルメディア上には人々の生の声が大量に転がっています。
例えば、自社ブランドの製品を買った顧客が製品の良い評価をしている場合もあれば、受けたサービスに対する苦情を載せていることもあるでしょう。競合企業の商品を買った顧客の、関連する投稿が転がっている可能性もあります。
それらの生の声をデータとして収集・調査し、分析することで、商品やサービスの評価や改善点、業界動向などを把握し、より良いマーケティングにつなげる方法がソーシャルリスニングです。
昨今、企業や商品の口コミは雑談の中ではなく、ソーシャルメディア上で発信されることがほとんどです。IT化やSNSの利用率増加によって、ソーシャルメディア上にある情報の価値がますます重要になっています。
マーケティング手法は時代とともに変化していきますが、今後はオンライン上の情報を効果的に活かせる企業が生き残っていくでしょう。そのため、ソーシャルリスニングを効果的に実施できる企業が成功を納めると考えられています。
マーケティングにおけるソーシャルリスニングの重要性
では、どうしてマーケティングにおけるソーシャルリスニングがこれほどまでに注目を集めているのでしょうか?マーケティングにおけるソーシャルリスニングの重要性について紹介します。
- ・顧客が持つブランドイメージを確認できる
- ・顧客の潜在的なニーズを把握できる
- ・競合他社の分析および比較に活用できる
顧客が持つブランドイメージを確認できる
ソーシャルリスニングを行うことで、顧客が自社に持っているブランドイメージを正しく理解できます。
例えば、企業側は「格安で高品質のサービス」を提供する会社を目指しているにも関わらず、顧客が企業のことを「格安だけど低品質のサービス」を提供する会社だと認識していたらどうでしょうか?企業と顧客の間にブランドイメージの大きな乖離があった場合、たとえすばらしいキャンペーンを実施しても、大きな成果を得ることはできないでしょう。
ソーシャルリスニングを行うことで、顧客と企業の認識の違いを明確化するとともに、顧客が持つ自社のブランドイメージを理解できます。ブランドイメージは、ターゲットとする顧客の選定や、具体的なマーケティングプランにも影響を与える非常に重要な要因です。ソーシャルリスニングによって顧客が持つブランドイメージを明らかにすることで、適切なマーケティングを実施することにつながります。
顧客の潜在的なニーズを把握できる
ソーシャルリスニングを行うことで、顧客が自社の商品やサービスについて感じていることを正しく理解できます。
例えば、A社が販売した速乾性の傘について、30代の女性Bさんがソーシャルメディア上で評価を投稿したとします。そこには「傘の機能はすばらしいけれど、見た目が地味だった」と投稿されていました。A社としては何よりも実用性を重視し、色についてはあまりこだわらず、「黒」を選びました。しかし、30代女性のニーズを満たすためには、「機能性+デザイン性」が重要であることがわかったのです。
ソーシャルリスニングを行うことで、顧客からの評価はもちろん、潜在的なニーズも読み取ることが可能です。その結果、顧客により喜ばれる商品やサービスを開発することができ、売上増につながります。
競合他社の分析および比較に活用できる
自社の商品をより多く売るためには、自身の商品のクオリティを高めることに加え、競合他社を調査し、商品の差別化を行う必要があります。ソーシャルリスニングによって、競合他社に対する顧客の考えを知り、適した商品を作ることができれば、競合他社から顧客を引き抜くことができるかもしれません。
競合他社との差別化を図るためにも、ソーシャルリスニングは重要な方法と言えます。
ソーシャルリスニングを活用した成功事例
では、ソーシャルリスニングは、具体的にはどのように活用され、どのような効果を生み出しているのでしょうか?ソーシャルリスニングを効果的に活用した事例として知られる「株式会社ソフトバンク」と「株式会社朝日新聞社」の取り組みについて紹介しましょう。
株式会社ソフトバンクの成功事例:ソーシャルメディアに寄せられた声を積極的に採用
株式会社ソフトバンクの孫氏は、コロナ禍にソーシャルリスニングを効果的に活用し、ブランドイメージを大きく向上させることに成功しました。2020年3月11日に、孫氏は簡易コロナ検査キットを大量配布するとツイートしました。
このツイートに対し、8,000ものコメントが寄せられたのです。肯定的なものもありましたが、「不安をあおるからやめてくれ」という批判的なものが多かったのです。ソーシャル上での声を受けた孫氏は、自らのアイデアを撤回。その代わりに、市民から寄せられるコメントをよく分析し、重要と考えたアイデアには「やりましょう」と答え、実行に移しました。
孫氏によるソーシャルリスニングにより、マスクや防護服が不足していた医療現場の人々をサポートするという支援に向かい、現場および市民から大きな賛辞を浴びることになりました。
会社のトップが市民とダイレクトにメッセージを交換したことや、自分の意見を柔軟に変更しつつ市民の声に寄り添うことが大きく評価され、孫氏および株式会社ソフトバンクのイメージが大きく向上することにつながったのです。ソーシャルリスニングをブランドイメージ向上につなげた貴重な事例の一つと言えます。
株式会社朝日新聞の成功事例:「世の中の声」を反映した紙面作成
株式会社朝日新聞は、日本でも有数の会員数を抱えるメディアです。しかしながら、記事のネタが研究データや著名人へのインタビューをベースにしているものが多く、記事執筆に時間がかかってしまい、記事の公開までに数ヶ月かかることが大きな問題点でした。
そのような背景の中、よりトレンド性があり視聴者の共感を得やすい紙面作りに取り組むことになり、その方法としてソーシャルリスニングを導入。Twitterでどのようなことが話題になっているかをソーシャルリスニングツールを用いて分析し、担当の記者がすぐに記事できるような新ルートを設計しました。
「世の中の声」が反映された新しい形の記事は、読者の共感や議論を生み出すことが多く、朝日新聞の人気ジャンルの一つにまで成長。また、そこに寄せられた読者の声を再度分析し、需要のありそうな内容を取り上げることで、次の記事のアイデアまで獲得できるようになったのです。
株式会社朝日新聞のソーシャルリスニングは、自社の記事に書けていたスピーディさとトレンド性を見事に解決した注目すべき事例と言えるでしょう。
ソーシャルリスニングで役立つツールの紹介
ソーシャルリスニングを行うに当たって、ソーシャルリスニング向けのツールの利用は必須ではありません。実際、上記で紹介した株式会社ソフトバンクの事例は、ソーシャルリスニング用のツールは一切用いていません。
しかしながら、長期的にソーシャルリスニングを実施するとなると、できる限り短時間かつ効率的に、市民の生の声を正しく分析する必要があります。そこで、ソーシャルリスニングにおすすめの無料ツールと有料ツールをそれぞれ2つずつ紹介します。
【無料】
- ・Social Mention
- ・Hootsuite
【有料】
- ・Trackur
- ・Reputology
無料のおすすめソーシャルリスニングツール
まずは、無料で利用できるおすすめのソーシャルリスニングツールを紹介します。ソーシャルリスニングを初めて利用する企業におすすめです。
Social Mention
Social Mentionは、「Mention(言及する)」という名前からもわかるように、ソーシャル上で話題になっている情報を抜き出し、一覧として表示できるツールです。キーワードや会社名、業界名などを検索することで、ソーシャルメディア上で話題になっている関連情報を一覧表示することができます。
SNSの検索・分析プラットフォームという位置づけのため、他の余分な機能が含まれておらず、ソーシャルリスニングに集中したい企業に特におすすめのツールです。会社と関連してどのようなキーワードが利用されているかや、ソーシャルメディア上の投稿の種類(肯定的、否定的、中間など)、投稿一覧などを確認できます。
サイトにアクセスするだけですぐに利用できるので、まずはソーシャルリスニングのトライアルとして試してみると良いでしょう。
Hootsuite
ビジネスへのソーシャルメディア利用が効果的な反面、複数のソーシャルメディアを利用することは大きな負担にもなります。Hootsuiteは、Twitter、Facebook、Instagram、LinkedInなどのソーシャルメディアを一元管理することに特化したツールです。ダッシュボードに複数のソーシャルメディアを表示させたり、投稿したりすることができます。
Hootsuiteには、アクセス解析機能がついており、各種ソーシャルメディアにおける顧客の反応を確認することができます。また、メッセージを一覧表示させることにより、各メディアに寄せられた顧客の声や評価を見比べ、次の戦略を考えるのにも役立ちます。
すべての機能を利用するためには有料版を購読する必要がありますが、30日間の無料体験がありますので、まずは試してみると良いでしょう。
有料のおすすめソーシャルリスニングツール
SNSマーケティングに力を入れていきたいと考えているのならば、有料のソーシャルリスニングツールを利用してみても良いでしょう。今回は、有料のツールの中でも、使い勝手の良い2つのツールを紹介します。
Trackur
Trackurは、企業や専門家がソーシャルネットワーク上の意見や評判を追跡、分析するために作られたソーシャルリスニング専用ツールです。新しい製品を開発し売れるようにマーケティングすることも重要ですが、それ以上に商品に対する顧客のイメージをマネジメントすることの重要性を指摘しています。
Trackurでは、独自の検索機能による自社に関連した投稿の選定やリアルタイムのモニタリング、自社分析ソフトによる評価と課題の整理などが実施可能です。
また、ほかのソーシャルリスニングツールとの違いとして、単なるツールの提供ではなく、コンサルティングも含めた改善方法の提案を行っている点が挙げられます。丁寧な利用説明書に加え、ソーシャルリスニングのプロによるサポートが受けられるため、ある程度予算がある企業にはおすすめのツールと言えます。
Reputology
Reputologyは、ソーシャルリスニングの中でも、顧客のレビューに焦点を置いたツールです。このツールを使えば、自社や業界、同業他社への顧客からのレビューが一覧表示されるため、顧客の生の声を確認し、次の戦略に活かすことができます。
例えば、顧客からのポジティブなレビューがあった場合、すぐに返信を行うことで、顧客の満足度をさらに高めることができます。顧客は、まさか企業からコメントをもらえるとは考えていないので喜びはさらに高まり、ブランドのファンになるでしょう。
その一方で、ネガティブなレビューがあった場合、早期に発見し、マイナスのレビューの拡散を防ぐことにつながります。また、適切な対応をすることができれば、顧客離れを防ぐとともに、新しい顧客の獲得にもつながる可能性があります。
顧客によるレビューを手作業で探すには非常に多くの時間がかかりますが、Reputologyを活用すればすぐに見つけ出し、必要な対応が瞬時にできます。SNSマーケティングを丁寧に進めたいと考えている企業におすすめです。
ソーシャルリスニングを行う際のポイント
最後に、ソーシャルリスニングを実際に行う際のポイントについて、3つの観点から説明します。
- ・適切なキーワードで検索する
- ・少数の意見の捉え方に気をつける
- ・自社の目的に適したソーシャルリスニングツールを利用する
適切なキーワードで検索する
まず、ソーシャルリスニングで大切なことは、適切なキーワードを選定して検索することです。企業の規模が大きくなればなるほど、企業名や商品名のみで検索した場合、ソーシャル上の言及数が大きくなりすぎ、追跡できなくなる場合があります。その際、「企業名+〇〇」のように、複合キーワードを利用することもあるでしょう。
しかし、キーワードの選定を間違ってしまうと、顧客からの評価を見誤ることがあることに加え、本当に必要なレビューを見過ごしてしまうこともあります。そのため、例えば必ず確認するキーワードをリスト化しておくなど、個人の判断にとらわれない、企業としての対策が重要となります。
少数の意見の捉え方に気をつける
ソーシャルリスニングを開始すると、否定的な評価がどうしても気になるようになります。しかし、その評価が多くの顧客を代表するような適切な評価なのか、それとも特定の個人による非常に限定的な意見なのかは、よく分析することが大切です。
そのためにも、ソーシャルリスニングは個人の目で行うのではなく、チームを組むなどして複数の目で行うことで、偏った判断を防ぐとともに、より正確な分析が可能になります。
自社の目的に適したソーシャルリスニングツールを利用する
ソーシャルリスニングツールは、無料から有料のものまで、さまざまなものがリリースされています。また、ソーシャルメディア全体のサポートを行えるものから、レビュー確認に特化したものまでさまざまです。
ソーシャルリスニングの領域は多岐にわたるため、まずはご自身の企業がソーシャルリスニングで何を達成したいのかを明確にする必要があります。そして、それを達成するための適切なソーシャルリスニングツールを選定するようにしてください。もし難しい場合は、専門家のアドバイスを受けるても良いでしょう。
まとめ
ソーシャルリスニングについての基本情報から、成功事例やおすすめツールまで、幅広く紹介しました。ソーシャルリスニングの重要性は今後ますます高まると考えられますので、今のうちに導入を検討しておくと良いでしょう。
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